カッチャオ検証ファイル  
image画像  Wさんは地元の大手機械メーカーに勤務するエンジニア。工場内の生産設備の保守全般を担当している。キャリアは今年で10年になり、真面目な仕事ぶりから現場の若手のリーダー格として、信頼と期待を集めている。
 そんなWさんの唯一の趣味は車いじり。といっても、チューンナップやドレスアップではない。カー用品を取り付けるのが好きなのである。Wさんの愛車は20歳の時に新車で買ったワゴン車。外観を見る限り、まったくのノーマルで、それなりの経年劣化もしている。走行距離も来月には10万キロに達する。会社の駐車場に止まっていても、あまり目立つことのない車である。
 しかし、中に入るとWさんのワゴン車はまったく別の車になる。最新かつハイグレードのオーディオ、カーナビ(TV、DVDビデオはもちろん、さまざまな機能付き)が取り付けられているだけでなく、ステアリングやアクセル&ブレーキレバー、さらにはシートまでが一流ブランドのものに交換されているのである。人に自慢することはないが、Wさんにとっては世界に1台しかない特別な車だった。
 きっかけは、5年ほど前に車を買い替えることになった友人から、カーオーディオのセットを譲り受けたことだった。もともと機械いじりが好きなWさんは、軽い気持ちでそのオーディオセットを自分で取り付けてみた。それが実に面白かった。Wさんが車をいじりだしたのはそれからだった。
 オーディオ関係は新製品や気になる製品があればすぐに購入し、載せ替える。ちなみに現在のオーディオセットは3代目、カーナビは4代目であり、この5年間に注ぎ込んだ費用は、パーツ類を含めるとゆうに500万円を超えており、毎月かなりの額がローンの返済に費やされていた(もちろん、Wさんは何の苦にもしていないのだが)。
 好きこそものの上手なれ、のことわざ通り、Wさんの取り付けの腕前もどんどん向上し、行きつけのプロショップのオーナーからも「ウチのスタッフより上手い」とお墨付きが出ているほどになった。今では友人たちや職場の同僚から取り付けを依頼されることも多くなっていた。
 周囲からは半ば真剣に「ショップを開いたら」と勧められることも多く、その度にWさんは「会社をリストラされたら考えるかな」と答えていた。もっとも、Wさんにそんな気持ちはさらさらなく、「趣味だから面白い。仕事になったらつまらなくなる」というのが本心だった。

 その日、Wさんは会社を昼前に出て帰路に就いた。Wさんは前日の夕方からトラブルを起こした機械の修理を明け方まで行い、無事復旧させていた。そのため上司が早退して休養することを勧めてくれた。心身ともに疲労困憊だったWさんは、ありがたく上司の計らいを受けることにしたのである。Wさんはまっすぐ自宅に戻り、とりあえず睡眠をとるつもりだった。
 会社の駐車場を出てしばらくすると、Wさんを強い睡魔が襲ってきた。張りつめていた気持ちが緩んだのだろうか。Wさんは目覚ましにオーディのボリュームを上げた。
 会社は市の郊外に広がる丘陵地帯に建っており、市街地に出るまでは緩いカーブが続く下り坂になっていた。走り慣れた道ではあるが、今のWさんにとっては危険なワインディングロードになっていた。ほんの数分で市街地に出る坂道なのだが、今日はその数分が長く感じられてくる。コンビニでコーヒーでも飲んで眠気を覚まそう。目をしばたかせながら、Wさんは坂道を降りていった。

 ようやく坂道の終わりを示す交差点が見えた。この交差点を抜ければ目指すコンビニはすぐだった。信号が青から黄色に変わった。Wさんは赤になる前に交差点を通り抜けようとアクセルを踏み込んだ。その直後、Wさんの記憶ははじけ飛んだ……その日の夜、Wさんは病院のベッドで目を覚ました。枕元には青白い顔の両親と会社の上司がいた。
 上司によると、Wさんのワゴンは交差点で左方向から来た車と出会い頭に衝突した。Wさんは事故の衝撃で意識を失い、救急車で病院に運ばれてきたのだった。それほど大きな怪我がなかったことが不幸中の幸いだったという。医師の話では2、3日入院して精密検査を行うらしい。
 「よかった、大事にならなくて」
 両親は何度も同じ言葉を繰り返した。
 「そうそう。車見た時はダメだって思いましたよ」
 上司の言葉にWさんは大事なことに気づいた。そうだ、自分の車はどうなったのか?上司は言った。
 「フロントが潰れてヒドいことになってたよ。全損だよ、あれじゃ」
 ……その言葉を聞いて、Wさんは全身から力が抜けた。俺の車が、世界に1台しかない車が……ベッドの上でWさんは意識が遠のいていくのを感じていた。
カッチャオの見解
image画像 事故の形態は交差点における出会い頭の衝突事故であり、この事故によってWさんの車は全損、さらにWさんもケガを負った。状況を見る限り、Wさんの症状は軽そうであり、その点は不幸中の幸いだと言えるだろう。
 まずはこの事故に関する一般的な処理の流れを説明しておきたい。現時点では双方の過失割合は未確定だが、便宜上、5割ずつ(双方に50%ずつの責任がある)だとしておく。
 この事故によって生じた車の損害とケガの治療費は、それぞれ双方の対物賠償保険、対人賠償保険によって賄われる。つまり、Wさんの車の損害とケガの治療費は、相手の保険(加入していればだが)によって補償されることになる。過失割合が5割なので、総額の半分が相手の保険から支払われるわけだ。もちろん、相手の車の修理費およびケガの治療費については、Wさんの保険から総額の5割が支払われることになる。
 今回のケースで問題になるのは(Wさんが最も気がかりにしていることだと思われる)、Wさんの車の損害額がどうなるか、ということだろう。なぜなら、全損してしまった車には、Wさんが金と時間を注ぎ込んだ自慢の後付け装備類が備わっていたからである。
 通常、車両の損害額の算出は、事故時点での車両の評価額(時価=購入金額ではなく、耐用年数などを考慮に入れて算出)が基準にして行われる。今回は全損事故なので、Wさんの車の評価額がそのまま損害額になる。仮にWさんの車の評価額が50万円だとすれば、25万円が相手の対物賠償保険から支払われることになり、残りの25万円はWさんの車両保険(任意)で賄うことができる。
 それでは、Wさんの車に備わっていた後付け装備類がどう評価されるのか?
 一般的には、ノーマルな状態の車に装着された部品・用品類は保険上、「特別装備」として扱われ、契約時に契約書に記しておけば、車両保険の対象となる。補償される金額は車両本体と同様に時価で算出される。
 こうした評価は「社会通念上、車の付加価値として認知されているかどうか」を基本にして行われる。運転の快適性を高めるオーディオやカーナビなどに加え、車両に不可欠な構成要素であるタイヤやホイールなどは基本的に認知されており、特別装備として認められる。キャンピングカー登録してある車両であれば、ベッドやシンクなども同様の扱いとなる。
 しかし、趣味性が高く、社会一般の認知度に疑問符がつくドレスアップパーツ類などは評価が難しくなる。どれだけ価値があるかは、ケースバイケースだと言わざるを得ないだろう。もちろん、違法改造であれば保険の対象外となる。
 今回の結論をまとめると、Wさんが車両保険に加入し、さらに特別装備を車両評価額に含めているならば、特別装備の損害に対する補償は可能になる。車両保険に加入していても特別装備が評価額に上乗せされていなければ、補償されるのは車両のみとなる。車両保険に加入していなければ、特別装備はもちろん、車両の損害も補償は受けられない。

 読者の皆さんの中には、Wさんほどではなくとも、愛車に“特別装備”を装着している人は多いだろう。そうした人は自分の契約内容を改めて確認してみてほしい。
 また、契約後に特別装備を購入、装着した場合は、直ちに保険会社に連絡して、契約内容を変更することをオススメする。保険料金はアップするだろうが、車両保険は事故だけではなく、盗難や自然災害まで幅広く補償されるので、万一の際の備えとして大きな力となってくれるはずだ。

 さて、Wさんであるが、損害が車両保険で補償されたとしても、補償額が時価換算である以上、注ぎ込んだ金額が全て支払われることはない。結果として体の傷よりも心に負ったダメージが大きいかもしれないが、これを教訓として今後はさらなる安全運転を心がけてほしい。それこそが、愛車に特別装備を装着することを含め、快適で充実したカーライフを送る前提条件となるのだから。
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 公道を走行する以上、周囲に危険をもたらす運転は容認されないものである。当然ながら、罰せられるからではなく、それが車を運転する者の最低限の基本的なルールだからだ。読者の皆さんもこの“単純”なことを改めて認識し、安全運転に努めてほしい。
※このケーススタディは編集部が作成したフィクションであり、実在の人物や団体等とは一切関係ありません。
また、写真も本文とは無関係です。