カッチャオ検証ファイル  
image画像 Nさんはこの地方の中堅商社に勤めるサラリーマン。機械部品の営業を担当し、地元のメーカーを回っている。
 商談はもちろん、小口の配送までをこなしており、営業とはいえなかなか体力の必要な仕事であった。そのため、暑さが苦手なNさんにとって、夏のこの時期は日々の仕事がかなりの重労働に思えてならなかった。
 しかし、だからといって、特に弱音を吐くわけではなく、毎日汗だくになりながらも、真面目に仕事をこなすNさんであった。
 その日は特に暑い日だった。しかも、朝から予定が立て込んでおり、遅めの昼休み(といっても、コンビニの駐車場で休憩することなのだが)に入った時には、Nさんは疲労困憊の状態になっていた。
 Nさんがその日の昼休みを過ごす場所に選んだのは、郊外の工業団地に続く県道沿いのコンビニ。その工業団地に、午後一番で訪問する予定の鉄工所があったからである。そのコンビニには何度か立ち寄ったことがあるが、よく行く国道沿いの店舗に比べて駐車場のスペースが狭く、Nさんは落ち着かない印象を持っていた。
 Nさんは店の側面側の駐車スペースで空いていた中央付近に車を入れた。いつもなら、弁当を買うついでに立ち読みでもしようかと思うNさんだったが、この日はそんな元気もなかった。トイレで顔を洗ってからペットボトルの麦茶2本とおにぎりを2つ買うと、すぐに営業車に戻った。
 Nさんはペットボトル1本を一気に飲み干して喉を潤すと、シートを倒して目を閉じた。午後も夕方までびっしり予定が詰まっていたため、少し仮眠をとって午後からの仕事に備えようとしたのである。麦茶を大量に飲んだせいか、食欲もわかず、おにぎりに手をつけようという気も起こらなかった。

 意識を取り戻したNさんは、時計を見て焦った。寝過ごしてしまったのである。すぐに出発しなければ約束の時間に間に合わない。
 しかし、皮肉なことに、予定以上に眠ったおかげで多少は頭も体もスッキリし、食欲もわいてきた。そこでNさんはさっき買ったおにぎりを食べながら目的の鉄工所に向かうことにした。ペットボトルをドリンクホルダーに挿入し、おにぎりの包装紙を破いた。
 ハンドルを右手で操作し、おにぎりを持った左手を口に運びながら、Nさんは車を動かし始めた。前から突っ込む形で駐車していたため、まずはバックで方向転換し、そのまま駐車場から道路に出るつもりだった。
 Nさんはゆっくりと車を後退させ、ハンドルを右に切った。突然、鈍い衝撃が全身に伝わってきた。いきなり右側から車が姿を現し、Nさんの車の右後方にぶつかったのである。

image画像 その車から若い男が2人降りてきた。Nさんも車を降りた。駐車場内ということもあって、双方ともスピードが出ていなかったために車の被害はそれほどではなかった。しかし、Nさんの車の右後部はへこみ、相手の車も左側のヘッドライトが割れているのがわかった。
 「あんた、何食いながら運転してんだよ、だからよそ見したんだろ!」
 「ちゃんと弁償しろよ!」
 Nさんは自分がおにぎりを握ったままだということにようやく気づいた。そして、男たちの言い分がかなり理不尽なものであることも理解した。
 「あんたらこそ前見て運転してたのか。こっちはちゃんと確認しながらバックしたんだ!」
 Nさんは男たちを睨みつけた。照りつける夏の太陽の下、3人の周りには殺伐とした冷たい空気が漂っていた…。
カッチャオの見解
image画像 状況を見る限り、双方にケガ人もいないと思われ、事故の形態はコンビニの駐車場で発生した物損事故と判断していいだろう。
 まず確認しておきたいのは、発生場所が道路上でなくても事故処理の手順に変わりはないということである。
 従って、今回のケースにおける事故処理は次のようになる。
 双方の車の損害は、過失割合に応じて互いに修理費用を負担することになる。その場合、対物賠償保険と車両保険(任意)を使うことができる。
 過失割合が5:5であるとして、双方の車の修理費用がそれぞれ10万円だったとする。双方は相手から5万円を補償(相手は自分の対物賠償保険の利用が可能)され、残りの5万円は自己負担(自分の車両保険の利用が可能)ということになるのである。
 それでは、このケースではどうなるのだろうか?
 最初のポイントは、双方の過失割合である。保険業者によると、今回のようなケースでは、駐車場からバックで出ようとした車の過失責任が大きくなるのが一般的だという。より注意義務が必要な立場にあるからである。つまり、Nさんの方が過失割合が大きくなる可能性が高いのである。
 次のポイントは、相手方が主張していたように、Nさんが飲食(おにぎりを食べながら車を運転)していたことが、過失割合にどんな影響を及ぼすかである。この点については、ケースバイケースと言うしかない。飲食していたことが明らかに事故の原因となったと判断されれば、当然過失割合はより大きくなるし、そうでなければ、過失割合は変わることはない。
 さらに、ポイントをもう一つ指摘しておきたい。それは、相手がNさんに対して“言いがかり”のような言葉を投げつけ、Nさんもけんか腰の対応をしていることだ。
 本誌がこれまで何度も主張しているように、当事者間で示談を進めるべきではない。事故直後の当事者は冷静さを失いがちであり、適正な判断ができにくい。さらに、どちらかが悪意を持った対応をしている場合、その相手は一方的に責任を押しつけられることも考えられる。また、双方が興奮して暴力沙汰に発展してしまえば、単なる物損事故が傷害事件になってしまう。事故発生後には、速やかに警察と保険会社に連絡する。この基本原則を守ってほしい。
 今回のケースは、Nさんにとってはマイナスの結果に終わりそうである。おにぎりの件が事故と無関係と判断されても、だからといって飲食しながらの運転が認められたわけではない。近く運転中の携帯電話使用も禁止となるだけに、読者の皆さんも運転時には運転だけに集中し、セーフティドライブに努めてもらいたい。
◇     ◇     ◇
 公道を走行する以上、周囲に危険をもたらす運転は容認されないものである。当然ながら、罰せられるからではなく、それが車を運転する者の最低限の基本的なルールだからだ。読者の皆さんもこの“単純”なことを改めて認識し、安全運転に努めてほしい。
※このケーススタディは編集部が作成したフィクションであり、実在の人物や団体等とは一切関係ありません。
また、写真も本文とは無関係です。