カッチャオ検証ファイル  
image画像 image画像  Nさんは通勤の途中でペットボトルのお茶を買うことが日課になっている。買うブランドや場所はその日の気分でまちまちだったが、必ず1本買って職場に向かうのである。
 その日、Nさんは朝一番で歯医者に立ち寄り、治療を済ませてから出勤した。通常よりも1時間ほど遅い時間だった。そして、Nさんがお茶を買う場所に選んだのは、職場近くの自動販売機だった。T字路の角に飲料水やタバコの自動販売機が数台設置されており(図1参照)、Nさんがよく利用する場所でもあった。
 Nさんは道路沿いに車を止めた。道路沿いには車が1台止まっており、Nさんの車はその後方に縦列駐車する形になった。このあたりは自動販売機を利用するドライバーが多く、道路沿いによく車が止まっており、Nさんはさして気にもとめず、ハザードランプを点滅させ、念のためにエンジンを切って車を降りた。そして、小走りに道路を渡って自動販売機の前に立った。
 「今日はどれにするかな」
 しばらく考え込んでいると、携帯電話が鳴った。職場の同僚からで、外部から電話があったという用件だった。急いでいるとのことで、Nさんはすぐにその相手電話をかけた。用件そのものには決して重要性はなく、すぐに終わった。しばらく雑談をした後で電話を切り、Nさんは再び自動販売機を眺め、今日のブランドを決めて硬貨を入れた。

 Nさんは自動販売機からお茶を取り出し、車に戻るために体の向きを変えた。その時だった。T字路に入ってきた車がNさんの車に追突したのである。そして、あろうことか、Nさんの車はその弾みで前方に止まっていた車に追突してしまった(図2参照)。急ブレーキを踏んだ音と3台の車が玉突きした音が連続して聞こえた。  Nさんは慌てて“現場”に走った。Nさんの車に追突した車の中から、青ざめた顔をした男が出てきた。そして、Nさんの車が追突した前方の車からも男が降りてきた。Nさんが自動販売機の前にいる間に、車に戻ってきていたようだ。一見する限り、3台ともそれほど大きな損害はなさそうではあった。
 互いに顔を見合わせた3人のドライバーの中で、最初に口火を切ったのはNさんだった。Nさんの車に追突した車のドライバーにやや強い口調で言った。

 「何でこんな場所で追突するんだよ、前見てなかったのか」
 「すいません……」
 その男は消え入りそうな声で謝罪の言葉を口にした。自分に非があることを十分に認めているようだった。
 「あんた、サイドブレーキ引いてなかったのか」
 前方の車から出てきた男がNさんに言った。明らかにその声には怒気が含まれていた。そういえば、確かにサイドブレーキは引いてなかった……。
 「あんたがちゃんとサイドブレーキ引いてりゃ、こっちは巻き添え食うこともなかったんじゃないか。ちゃんと弁償してくれよ。それと、医者行ってケガないか診てもらうから」
 Nさんは言葉に詰まった。気のせいか、Nさんの車にぶつけた男の視線が痛く感じられてきた……。
カッチャオの見解
image画像今回のケースは3台が絡んだ玉突き事故である。
 Nさんの車は3台の真ん中に位置し、 “ぶつけられて、ぶつかった”という役割を果たしたことになる。そのため、追突したドライバー(以下Aと表記)からは謝罪され、反対にぶつけた車のドライバー(以下Bと表記)からは責められているという構図である。
 結論を言えば、この事故の責任はAが負うことになる。こうしたケースでは、最初に事故の原因を作った者が責任を負うことが基本なのである。
 さらに言えば、止まっている車に追突していることからも、この事故の全ての責任はAにあるということになるだろう。
 従って、NさんとBの被害はAが賠償することになる。この場合、AはNさんとBの車の損害を対物賠償保険で賄うことが可能で、自分の車の損害は車両保険(任意)を使うことができる。仮にB(もちろん、Nさんも)がケガをしていたとすれば、その治療費はAの対人賠償保険によって賄うことができるし、A自身のケガは搭乗者傷害保険で補償される。
 ここで注意したいのは、BがNさんに対して責任を問うような発言をしていることだ。確かに、Bの主張には正当性があるようにも思える。しかし、サイドブレーキを引いていなくても車が静止していた状況では、Nさんの責任を問うことはできないだろう。Bが責任を問う対象は、あくまでAなのである。
◇     ◇     ◇
   今回のケースで、Aの過失割合が軽減されるとすれば、NさんとBがよほど見通しの悪い場所に止めていたり、車幅を著しく狭めるなど “行儀の悪い”止め方をしていた場合などが考えられる。
 その際の過失割合は、現場の詳細な状況から判断されることになる。つまり、ケース・バイ・ケースである。
 NさんとBが車を止めていた場所が駐車禁止区間であっても、それと事故の責任は別次元の話となる。
 また、今回のように事故の当事者が多数になった場合、当事者間による現場での示談は避けるべきだろう。
 ただでさえ、当事者同士の示談は後にトラブルが発生するリスクが高い。そのため、当事者が増えれば増えるほどトラブル発生のリスクが高まるのは自明の理とも言える。
 今回のケースに当てはめると、NさんがBの主張を受け入れてしまったら、Nさんは負わなくてもいい責任、不利益を負うことになる。また、本来負うべきAの責任が軽減されることにもつながっていく。
 やはり、事故処理の基本である、警察と保険会社への速やかな連絡を行い、スムーズで公正な事故処理を進めるべきであろう。事故直後はどうしても当事者は感情的になってしまい、冷静かつ適切な判断はできにくい。だからこそ、万一の際は事故処理の基本に徹することが重要なのである。
※このケーススタディは編集部が作成したフィクションであり、実在の人物や団体等とは一切関係ありません。
また、写真も本文とは無関係です。